気になる15番

 こんばんは。Youtube大学です。嘘ですplaxma_yです。
CWC附属書スケジュール1の改訂で名指しされた15番の化合物が気になったのでちょっと突っ込んだ彼の話をします。

こいつです

















 まずこの化合物(15)の特徴は(13)、(14)とは異なりメチレン炭素に窒素が二つ結合して対称になっていることです。単純に窒素原子が多いので塩基としては強くなると思うのですがAchEとの親和性がより強力になるのでしょうか。
 次に挙げられる特徴としてはアミン窒素に結合しているアルキル基に指定の幅がなく、エチル基を名指ししている点です。より小さいメチル基でも十分に強力な阻害剤としてはたらくように思うのですが指定の範囲外になっています。後述するバイナリー式として使うために分子量を調節しているのかもしれません。(結晶性の関係で融点を調節している可能性も考えられます)




 わかりやすくするためにメチル基でモデルを作成しました。キラル中心のリンはS体です。これを見ると酸素-イミン窒素の配座によらず二つあるアンモニウムイオンになった窒素のどちらか片方がAChEのアニオニックサイトと結合するであろうことが予想できます。強力な構造ですね。


(追記:間に酸素原子が入っていたので画像を差し替えました。すみません。上の画像はそのままにしておきます。)
 本来のエチル基4つのモデルです。ちょっとごちゃごちゃしますね。安定なエネルギー極小配座が実際どうなっているかはWinmostar単体では限界があるのでわかりません。
 この手の化合物は恐ろしく強力な阻害剤であることを考えると大量に製造や保存、管理を行うことが困難になってきます。危険すぎて誰もやりたがらないんですね。その点から実際の剤形はバイナリー式であることが予想されます。色々な経路を少し考えたのですが下の画像に示したものが一番シンプルで無駄がないのではないでしょうか。(実際に反応が進むかは実験のしようがないのでわかりません)















 通常G剤やV剤のバイナリー式化学兵器は安定化のため副生成物のフッ化水素を塩基で中和する必要がありますが、この反応の場合生成物自体がかなり強いLewis塩基だと思われるのでN,N-ジエチルアニリンのような安定化剤は必要がないのかもしれません。仮に安定化剤が必要ないのだとするとペイロードとしての重量効率が向上するため化学兵器として理想的だと言えるのではないでしょうか。だからこそリストに記載されたとも言えるわけですが。
 よし、この内容をYoutubeで動画化しよう。(誰も観ない)

 20200130追記:
 気付いたことが2つあるので追記します。1つ目はキレート化の可能性についてです。
















 アミン部分が2か所以上あるということは二つのアミンが両方ともアンモニウムイオンになった場合、AChEのアニオニックサイトと複数箇所でゆるやかな結合をする可能性が考えられます。このような結合が実際に起こった場合、キレート効果によりAChEとの結合が従来の神経剤よりもはるかに強固になり、より強力な阻害剤として機能することが示唆されます。
 二つ目はイミン部分の二重結合に水が付加をする可能性です。












 実際にこのような反応が起こるかは実験ができないのでわかりませんが、仮に体内で水が付加することにより安定な化合物になるのであれば強力なAChE阻害剤としての能力が担保されることになると筆者は考えています。
 何か新しい情報があれば入り次第更新していきたいと考えています。

CWC Annex2 Schedule1の改訂内容について

 はい。plaxma_yです。
CWC(化学兵器禁止条約) 附属書 スケジュール1の改訂がCSP24において2019年11月27日に採択されました。
その具体的な内容が2019年12月23日に発表され、2020年1月7日にOPCW SciTechのアカウントがその件についてpdfへのリンク付きでツイートしました。以下内容を追います。

 採択から180日後の2020年6月7日までに4つのシナリオに分かれて(といってもほぼすべての国が批准、署名しています)履行されるようですが、ここでは手続き上のあれこれはすっ飛ばして11ページ以降の具体的な化合物の話のみをします。
 1番から12番までの化学剤、前駆体についての変更はありませんが化学剤の項に13番から16番が追加されました。順に見ていきます。

(13)  P-alkyl(H or ≤C10, incl. cycloalkyl) N-(1-(dialkyl(≤C10, incl. cycloalkyl)amino))alkylidene(H or ≤C10, incl. cycloalkyl) phosphonamidic fluorides
and corresponding alkylated or protonated salts
 13~15番はいわゆるNovichokですね。アミン部分がLewis塩基なので塩を含むことが明記されています。



 A-230に似ているので比較しました。全部デシル…でかくない?

(14)  O-alkyl (H or ≤C10, incl. cycloalkyl) N-(1-(dialkyl(≤C10, incl. cycloalkyl)amino))alkylidene(H or ≤C10, incl. cycloalkyl)phosphoramidofluoridates
and corresponding alkylated or protonated salts
 画像で文書中に挙げられた3つの例を描きました。



 ホスホ「ル」アミドフルオリデートなのでエステルになっていると考えています。
(ちょっとよくわかっていません。すみません)

(15)  Methyl-(bis(diethylamino)methylene)phosphonamidofluoridate
CAS RN:2387496-14-0

















 15番は名指しなので該当する化合物は一つです。(追記:リン原子がキラル中心なので厳密には二つです。)
ホスホ「ン」アミドフルオリデートなのでアルキル基がリンに直接結合していると考えています。

(16)  Carbamates (quaternaries and bisquaternaries of dimethylcarbamoyloxypyridines)
Quaternaries of dimethylcarbamoyloxypyridines:
カルバメート剤:ジメチルカルバモイルオキシピリジン4級塩
これは既に「みりけむ!」でも取り上げた化合物です。

1-[N,N-dialkyl(≤C10)-N-(n-(hydroxyl, cyano, acetoxy)alkyl(≤C10)) ammonio]-n-[N-(3-dimethylcarbamoxy-α-picolinyl)-N,N-dialkyl(≤C10) ammonio]decane dibromide (n=1-8)

 これはちょっと範囲が広いですが、例として挙げられている化合物とそれを範囲とする特許を画像にして説明します。


これらの追記された化合物が本当に全て廃棄処理されるのでしょうか。はっきり言ってわかりません。
 カルバメート剤については「みりけむ!神経剤の化学 改訂第2版」で詳しく扱っています。
通販のみですがこちらからどうぞ。

 



















 構造が間違っていた場合は教えていただけると幸いです。
 最近なんだか化学兵器ウォッチャーになっているplaxma_yでした。

参考文献:Ellison, D.H. "Handbook of Chemical and Biological Warfare Agents" 2nd edition  CRC PRESS 2008

C101告知

  お世話になっております。特に何もなければC101にサークル参加の予定です。 当日は対戦よろしくお願いいたします。plaxma_y