CWC附属書スケジュール1の改訂で名指しされた15番の化合物が気になったのでちょっと突っ込んだ彼の話をします。
こいつです |
まずこの化合物(15)の特徴は(13)、(14)とは異なりメチレン炭素に窒素が二つ結合して対称になっていることです。単純に窒素原子が多いので塩基としては強くなると思うのですがAchEとの親和性がより強力になるのでしょうか。
次に挙げられる特徴としてはアミン窒素に結合しているアルキル基に指定の幅がなく、エチル基を名指ししている点です。より小さいメチル基でも十分に強力な阻害剤としてはたらくように思うのですが指定の範囲外になっています。後述するバイナリー式として使うために分子量を調節しているのかもしれません。(結晶性の関係で融点を調節している可能性も考えられます)
わかりやすくするためにメチル基でモデルを作成しました。キラル中心のリンはS体です。これを見ると酸素-イミン窒素の配座によらず二つあるアンモニウムイオンになった窒素のどちらか片方がAChEのアニオニックサイトと結合するであろうことが予想できます。強力な構造ですね。
(追記:間に酸素原子が入っていたので画像を差し替えました。すみません。上の画像はそのままにしておきます。)
本来のエチル基4つのモデルです。ちょっとごちゃごちゃしますね。安定なエネルギー極小配座が実際どうなっているかはWinmostar単体では限界があるのでわかりません。
この手の化合物は恐ろしく強力な阻害剤であることを考えると大量に製造や保存、管理を行うことが困難になってきます。危険すぎて誰もやりたがらないんですね。その点から実際の剤形はバイナリー式であることが予想されます。色々な経路を少し考えたのですが下の画像に示したものが一番シンプルで無駄がないのではないでしょうか。(実際に反応が進むかは実験のしようがないのでわかりません)
通常G剤やV剤のバイナリー式化学兵器は安定化のため副生成物のフッ化水素を塩基で中和する必要がありますが、この反応の場合生成物自体がかなり強いLewis塩基だと思われるのでN,N-ジエチルアニリンのような安定化剤は必要がないのかもしれません。仮に安定化剤が必要ないのだとするとペイロードとしての重量効率が向上するため化学兵器として理想的だと言えるのではないでしょうか。だからこそリストに記載されたとも言えるわけですが。
よし、この内容をYoutubeで動画化しよう。(誰も観ない)
20200130追記:
気付いたことが2つあるので追記します。1つ目はキレート化の可能性についてです。
アミン部分が2か所以上あるということは二つのアミンが両方ともアンモニウムイオンになった場合、AChEのアニオニックサイトと複数箇所でゆるやかな結合をする可能性が考えられます。このような結合が実際に起こった場合、キレート効果によりAChEとの結合が従来の神経剤よりもはるかに強固になり、より強力な阻害剤として機能することが示唆されます。
二つ目はイミン部分の二重結合に水が付加をする可能性です。
実際にこのような反応が起こるかは実験ができないのでわかりませんが、仮に体内で水が付加することにより安定な化合物になるのであれば強力なAChE阻害剤としての能力が担保されることになると筆者は考えています。
何か新しい情報があれば入り次第更新していきたいと考えています。